続古本を買う

金沢に来てから出来た友人の中に、榊さんという者がいる。彼はそのダメ人間性、趣味性に於いて我輩と相通じるもの多く、2人してアルコォルに溺れながらマンガ論やら人間論やら論じていると正にダメ人間見本市の様相を呈するばかりである。しかしながら彼の名誉に掛けて云うならば、彼は我輩とは違う方向性を持ったダメ人間なのである。我輩が社会の枠から外へ外へと出て行こうとするダメ人間であるのに対して榊さんは己を社会復帰させようともがいている(けれどもできない)タイプのダメ人間なのである。彼を見るたびに我輩、彼の如く社会に何の望みぞ抱かん……と歎ずるは己が朋友の失うを恐れるか。
 
さて、その榊さんであるが、彼はマニアを観察して喜ぶという何とも形容のし難い趣味を持っている。現在彼はプラモデル・ガレキ及びエロゲーのマニア観察を行っている。本人の云うには、マニアやらオタクやらが燃えや萌えをモデルなり絵なりに形成するその情熱が好きだとか何とか。分からなくもないがそれならば自分でやった方がもっと面白いのではないかと思うのだが、彼にとってはそれもどうも違うようで相変わらず「プラモデルが好きな人」たちの観察を続けている。
その榊さんの行き付けの古本屋兼プラモデル屋があるそうで、行けば濃ゆい人たちのお話が聞けるから是非行けと勧められたのである。モデルはどうでもいいが本があると聞けば行かざるを得ない。
その古本屋、ヘイセイ堂はガード下のこじんまりとした店舗で、いかにも怪しげな匂いの漂う外観であった。店内に入るとすぐに棚と本の山が目に飛び込んでくる。人ひとり通れるくらいの狭い間隔で高い棚が並び、天井まで本が並べられているのである。よく見れば床にも無造作にダンボール箱に入れられて本が置かれている。覗けば著者も出版社もジャンルもばらばらに文庫本が詰め込まれているる。
 
カオスだ。
 
先日行った古本屋とは比べ物にならないくらい混沌に満ち満ちている。
棚の張り紙を見れば、「マンガ、文庫一冊50円(裏に値段の書いてあるものは除外)」。店の宣伝文句は「北陸一の在庫量」。そしてこのカオス……。
たぶん、ここは古本の市場から値のつかないようなクズ本を二束三文、タイトルも見ずに買い集め棚に押し込んでいるのだろう。見れば裏にブックマーケットの値段シール「105円」がついたままの商品もある。他店の棚からも追い出された古本たちの行き着くところ……いうなれば、ここは古本の最終処分場となるのだ。本を愛する一個人としては何ともやるせない思いになる。
幾ばくかでも救おうと2時間近く全部の棚を見て回って18冊購入。
 
北大路魯山人 平野雅章編「魯山人味道」中公文庫
池波正太郎「小説の散歩みち」朝日文庫
森鴎外阿部一族舞姫新潮文庫
エドガー・アラン・ポー「黒猫・黄金虫」新潮文庫
黒塚信一郎「日本怪異譚」青春出版社
神林長平戦闘妖精・雪風<改>」ハヤカワ文庫
柴田錬三郎御家人斬九郎新潮文庫
三浦つとむ「日本語はどういう言語か」講談社学術文庫
太宰治人間失格新潮文庫
柳田国男遠野物語新潮文庫
筒井康隆「腹立半分日記」文春文庫
筒井康隆「心狸学・社怪学」講談社文庫
遠藤周作「沈黙」新潮文庫
北杜夫「どくとるマンボウ航海記」新潮文庫
北杜夫マンボウ百一夜」新潮文庫
アイザック・アシモフ鋼鉄都市」ハヤカワ文庫
丸谷才一 山崎正和「日本の町」文春文庫
江戸川乱歩江戸川乱歩傑作選」新潮文庫
 
とりあえず著者とタイトルだけ。安いのでホントに買う価値があるかどうかという本も混じってる気がするが、これで当分は読むものに困らないだろう。