久しぶりに自分のサイトを見てみると、一ヶ月の1/3ほどまるっきりサイトに関する全てを放棄していたようである。
しょうがないので適当に読んだ本の感想など書こう。
 
 
 
『黒冷水』読了。
手元にないので作者は忘れたが綿谷のりさたんと同じ文藝賞を最年少17歳で受賞した作品だそうだ?
装丁とタイトルにちょっと惹かれたので読んでみたがどう考えても文藝賞の器とは思えない話。
兄の部屋を執拗にあさる弟、それにムカついてやり返す兄、狂える弟シンナーとヘロインで人格崩壊。という現実を遥かに超越した兄弟喧嘩の話。書き方によっては読めるようになるのかもしれんとは思うが、とてもすんなり納得して読めるレベルには構築されていない。仕掛け上そうなっているのかもしれないが、それでも全体を俯瞰して文藝賞を取れる話とは思えん。話は不愉快だしキャラに魅力ないし読後にこれといった収穫もないし。
いったい、こんな作品に文藝賞を出さなければならないほど応募作のレベルが低いのだろうか?
と思いながら巻末の宣伝ページを見るとこの回の文藝賞は三作品同時受賞である。
どう考えても賞出しすぎ。
そこまで賞を与えたいほどいい作品がそろっているのか?
その中にこんなものを混ぜ込んでいるのならば、どう考えても『高校生作家現る』といった話題づくりのための受賞としか思えないのだが、どうなんだろうか。
 
 
新堂冬樹『炎と氷』読了。
いつもと変わらぬ新堂作品。
ちょっと癖のある文章、過度の暴力描写、適度に下劣(そしてちょっと笑える)なエロ描写、金にどこまでも汚い主人公による安心の闇金覇権物語だ。
基本的な要素は『闇の貴族』や『無間地獄』と一緒である。過去(大抵父親)にトラウマ抱えて金に命と同等なほどに執着を持つ主人公(闇金融のボス)が同じように金を狙う勢力(ヤクザなど)と対立して最後には敗れて死ぬ。本作では炎のように激しい暴力を誇る世羅と、氷のように冷酷な頭脳を持つ若瀬、この友人同士の金を巡る抗争、というお話。
目新しいところは何もないが素直に楽しめる作品である。ということはそれだけマンネリ化しているということでもある。
近作に目を向けると『ある愛の詩』、『銀行篭城』、『三億を護れ!』などと闇金融から離れた話が目立つ*1。著者自身も闇金を舞台にした物語の量産がもはや限界に来ているということを自覚しているのだろう。
しかしあの新堂冬樹が、純愛物語を書くというのはどうにも信じがたい。闇世界以外を舞台にした初めての作品『忘れ雪』が出たときには本気で腰が砕けそうになったものである*2
新堂冬樹=金と権力を巡る人間のドロドロの欲望が渦巻くノワールという既成の枠から出ることのできない読者というのも困ったものである。
 
 
今池電波聖ゴミマリア』読了。
これも作者忘れた。町井登志夫だったかな?『エリ・エリ』に続く第二回小松左京賞受賞作品だと思った。
まずタイトルが狙ってる。小松左京の名を持つ賞を受賞したというのだからさぞかしSFなのだろうと思いきや読み始めるとあまりSFぽくない。ページをめくるといきなり縛られている女の子が粗野で野蛮な大男に腹を思いっきり殴られて流産させられている。孕ませた男が金を払って流産させてもらっているのだ。で、主人公はどういうわけか大男に気に入られて仕方なく連れているだけの少年。力も頭も金もなく何にもできない高校生。いったいどんなSFだ。
町に出るとゴミの山。日本の経済は完全に破綻し人口はどんどん減り高校ではいくつかの勢力が派閥抗争を繰り広げ……なんだ、北斗の拳的SFか。
とにかく読んでいると気分が暗くなってくる一冊だ。日本にはどこにも未来なんかねぇんじゃねぇかと絶望的な気分になれる。とにかく出口のない絶望的日常が展開して実に嫌な話だ。がまぁ、話自体はよわっちい主人公がそれなりに生きている世界を描いていて、そこまで暗い雰囲気ではない。そこにチグハグ感が浮き上がってもいるのだが。
読後感はともかく読んでいる間はとりあえず楽しめた。
 
 
とりあえずそんな感じ。

*1:どの作品もまだ未読である

*2:出たときに新品で購入したが未だ読んではいない。己の弱腰を見るに、どうも本当に腰が砕けたのかもしれない